大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 平成9年(行ウ)12号 判決 1999年12月24日

静岡県浜松市中沢町一六番一六号

原告

浜中木材株式会社

右代表者清算人

渡辺宏

右訴訟代理人弁護士

渡辺昭

静岡県浜松市元目町一二〇番地の一

被告

浜松西税務署長 藤塚清治

右指定代理人

松本真

木上律子

清水康旨

大畑惣吾

平山友久

奥野清志

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告の平成四年一〇月八日解散による清算所得に対する法人税の更正の請求に対してなした平成六年七月八日付け更正処分について、更正の請求に理由がない旨の通知処分、すなわち清算所得金額一〇五万九六〇二円、清算所得に対する納付すべき税額三四万九四七〇円、一一八九万九五〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告

原告は、平成四年一〇月八日、株主総会の決議によって解散し(同月一五日解散の登記)、平成五年九月一九日、決算報告書について株主総会の承認を得て、清算が完了した会社である(同月二九日清算結了の登記)。

2  清算確定申告(法人税法(以下「法」という。)一〇四条)

原告は、被告に対し、平成五年九月二七日、清算所得金額を三五八四万〇四〇二円、これに対する法人税額を一一八二万七二〇〇円(<1>)、土地の譲渡等に係る譲渡利益金額(以下「土地譲渡利益金額」という。)を一億四二八五万九〇〇〇円、これに対する法人税(租税特別措置法(平成六年法律第二二号で改正される以前のもの。以下「措置法」という。)六二条の三の規定による法人税。以下「土地重課税」という。)額を一四二八万五九〇〇円(<2>)、納付すべき法人税額を二五九八万四三〇〇円(<1>と<2>の合計額から所得税額一二万八七九八円を控除した額。ただし、一〇〇円未満切捨て(国税通則法一一九条一項))とする清算確定申告(以下「本件申告」という。)を行った。

3  更正の請求(国税通則法二三条)

原告は、被告に対し、平成六年四月一九日、清算所得金額及び譲渡利益金額の計算に誤りがあり、法人税額が過大になったとして、清算所得金額を〇円、これに対する法人税額を〇円(<1>)、土地譲渡利益金額を一億一六七八万九〇〇〇円、土地重課税額を一一六七万八九〇〇円(<2>)、納付すべき法人税額を一一五五万〇一〇〇円(<1>と<2>の合計額から前記所得税額を控除した額。ただし、一〇〇円未満切捨て)とする更正の請求(以下「本件請求」という。)を行った。

4  更正処分

被告は、本件請求に対し、平成六年七月八日、清算所得金額の計算に誤りはなく、更正をすべき理由はないが、土地譲渡利益金額の計算には誤りがあったとして、これを一億一六七八万九〇〇〇円(原告の請求どおり)、土地重課税額を一一六七万八九〇〇円(<2>)(原告の請求どおり)、納付すべき法人税額を二三三七万七三〇〇円(2項<1>と右<2>の合計額から前記所得税額を控除した額。ただし、一〇〇円未満切捨て)と更正した(以下、右更正処分のうち、更正の請求に理由がない旨の処分(通知処分)を「本件処分」という。)。

二  争点

本件申告の清算所得金額の計算に誤りがあったといえるか。

(原告の主張)

1(一) 原告は、本件申告の清算所得金額の計算にあたり、土地重課税額一一六七万八九〇〇円から前記所得税額を控除した法人税額一一五五万〇一〇〇円並びに土地重課税額に係る県民税額五四万五六〇〇円及び市民税額一四五万二九〇〇円の合計額一三五四万八六〇〇円を清算所得金額三五八四万〇四〇二円から控除しなかった。

ところで、法九四条は、清算所得に対する法人税額は残余財産の価額に算入するが、それ以外の法人税額は、残余財産の価額に算入しないことを定めた規定であるところ、土地重課税は、土地譲渡利益金額に対して課されるもので、清算所得の有無に関わりなく課されるものであるから、清算所得に対する法人税とはいえない。

したがって、土地重課税額並びにこれに係る県民税額及び市民税額(以下「土地重課税額等」という。)はいずれも、清算所得金額の計算上、残余財産の価額から控除されるものである。

したがって、本件申告の清算所得金額の計算には誤りがある。

(二) そして、清算所得金額を正しく計算すると二二二九万一八〇二円となるところ(三五八四万四〇二四円から一三五四万八六〇〇円を控除した金額)、この場合、原告は、法人税、県民税、市民税及び事業税の還付金(以下「本件還付金」という。)として、合計二一二三万二二〇〇円を受け取ることができる。

ところで、本件申告に先立って開かれた原告の株主総会においては、本件還付金の存在が看過されたことから、原告の元代表取締役である訴外亡渡辺敏雄及び代表取締役である訴外山本義夫に対する役員退職金を、設立当時からの従業員の退職金あるいは同種・同規模の法人の役員退職金と比較して著しく低額である四〇〇万円(訴外亡渡辺敏雄に対する役員退職金)及び五〇〇万円(訴外山本義夫に対する役員退職金とする決議がなされた。そして、右株主総会において、本件還付金の存在が考慮されていれば、右還付金は、右両名に対する役員退職金にあてられるはずであった。そこで、平成六年四月三日に開かれた原告の株主総会においては、訴外亡渡辺敏雄に対する役員退職金を四〇〇万円から一三〇〇万円に、訴外山本義夫に対する役員退職金をを五〇〇万円から一七二三万二二〇〇円にそれぞれ変更する決議がなされた(以下「本件変更決議」という。)

したがって、原告の清算所得金額は、前記二二二九万一八〇二円から、さらに本件変更決議により増額された二一二三万二二〇〇円を損金として控除した一〇五万九六〇二円となる(なお、原告は、本件請求の際、清算所得金額を〇円としたが、これは誤りであった。)。

2 また、清算所得金額は、解散による残余財産の分配として株主が払戻しを受ける金額のうち、資本等の金額以外の部分からなる金額であるところ、本件の場合、株主が払戻しを受けた金額は、二九一万〇一〇四円であるから、これに清算中に納付した市県民税二万〇七〇〇円及び前記所得税一二万八七九八円を加算した金額三〇五万九六〇二円から資本金二〇〇万円を控除した残額一〇五万九六〇二円が清算所得金額となる。

3 以上によれば、本件申告の清算所得金額の計算には誤りがあるから、これを認めなかった本件処分は違法である。

(被告の主張)

1 措置法六二条の三第一項は、法人が、土地の譲渡等をした場合、当該法人に対して課する清算所得に対する法人税額は、法九九条の規定にかかわらず、同条により計算した法人税額に、土地譲渡利益金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。したがって、土地重課税が、清算所得に対する法人税であることは明白である。

また、法九四条は、その一号イ及びロに掲げる法人税を除き、法人税を残余財産の価額に算入する旨規定しているところ、土地重課税が同条一号イ及びロに該当しないことも明らかである。

さらに、同条三号は、地方税法の規定による道府県民税額及び市町村民税額を残余財産の価額に算入する旨規定している。

したがって、清算所得金額の計算上、土地重課税額等を残余財産の価額に算入することは明白であるから、本件申告の清算所得金額の計算に何ら誤りはなく、土地重課税額等を残余財産の価額から控除できるとの原告の主張は、独自の解釈に基づくものであり、失当である。

2 また、原告は、清算所得金額は、解散による残余財産の分配として株主が払戻しを受ける金額のうち、資本等の金額以外の部分からなる金額である旨主張するが、清算所得金額は、残余財産の価額から資本等の金額と利益積立金額等との合計額を控除した金額であるから(法九三条一項)、「株主が払戻しを受ける金額」を基礎とする旨の原告の主張は、失当というほかない。

3 さらに、本件変更決議により増額変更された役員退職金は、以下に述べるとおり、清算所得金額の計算において、残余財産の価額を計算するにあたり、控除すべき債務に該当しない。

(一) 本件における原告の残余財産は、解散決議を経て、現務をすべて終了し、債権の取立て等を行った後、平成五年九月一九日の臨時株主総会で残余財産確定時の決算報告書及び残余財産分配明細表等を承認する決議(以下「本件承認決議」という。)がされた時点までに確定しており、役員退職金を含む債務の額は、当然に確定しているのであって、他方で、本件承認決議には何らの瑕疵も存在しない。

また、原告は、本件承認決議の後、精算確定申告書を提出するなどして清算事務を結了しているのであるから、その時点で、法人として消滅し、権利能力を喪失するに至ったものである。

したがって、本件変更決議については、いずれにしても単なる事実行為にすぎないものであるから、何ら法的効力は生じない。

(二) なお、本件においては、平成六年七月八日付けの減額更正処分により、法人税額二六〇万七〇〇〇円の還付金及び同処分に伴う地方税の還付金(以下「本件減額更正処分による還付金」という。)が発生した。

しかしながら、本件減額更正処分による還付金は、ほかに何らの決議を要することなく、当然に株主に分配されるべきものであるから、右減額更正処分の後の原告の清算事務の内容は、右還付金を株主に分配することに限られるのであって、原告が新たに役員退職金を負担し、あるいは、右還付金を役員退職金として支給するなどという決議をすることはできない。

また、原告は、被告が減額更正処分をした平成六年七月八日以降、その権利能力が復活したのであるから、原告が、それ以前に本件変更決議をすることができないことも明らかである。

(三) さらに、法三六条は、内国法人が各事業年度において、その退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理しなかった金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しており、役員退職金の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等により支給額が具体的に確定した日の属する事業年度とされている(法人税法基本通達九―二―一八)。

このことは、各事業年度の課税所得金額の計算のみならず、清算取得金額の計算においても当然に当てはまるものと解すべきである。

したがって、清算取得金額の計算上、残余財産の額から控除される役員退職金の額は、本件申告に先立つ本件承認決議により、支給額が具体的に確定した役員退職金の額に限られる。

第三争点に対する判断

一1  本件の主たる争点は、土地重課税額等が清算所得金額の計算上、残余財産の価額から控除されるべきものであるか否かという点にあるので、以下、この点について検討する。

2(一)  法九二条によれば、内国法人である普通法人(以下、単に「法人」という。)が解散した場合における清算所得に対する法人税の課税標準は、解散をした場合における清算所得金額とするとされているところ、法九三条一項によれば、清算所得金額は、残余財産の価額から解散の時における資本等の金額(その定義は、法二条一六号)と利益積立金額等(その定義は、法九三条二項)との合計額を控除した金額とするとされている。

そして、法九四条によれば、法人が清算中に納付する法人税額は、解散の日の属する事業年度以前の各事業年度の所得に対する法人税額(法の第二編第一章参照)と退職年金等積立金に対する法人税額(法の第二編第二章参照)を除き、法人の解散による清算所得金額の計算上、残余財産の価額に算入するとされているところ、ここで残余財産の価額に算入するとされている法人税額(すなわち同条一号の「法人税のうち次に掲げる以外のもの」)とは、清算所得に対する法人税額(法の第二編第三章参照)を意味することが明らかである。

ところで、土地重課税額は、清算所得から土地譲渡利益金額だけを分離してこれを課税対象とするものであり、たとえ清算所得が存しないときでも土地譲渡利益金額が存する限り課税されるものであるが、措置法六二条の三第一項によれば、右のような性質を有する土地重課税も清算所得に対する法人税として取り扱われていることは明らかである。

したがって、土地重課税額は、残余財産の価額に算入されるものである。

(二)  また、法九四条三号によれば、地方税法の規定による道府県民税額及び市町村民税額は、同号の例外にあたる場合を除き、残余財産の価額に算入するとされているところ、土地重課税額に係る県民税額及び市民税額が同号の例外にあたらないことは明らかである。

したがって、土地重課税額に係る県民税額及び市民税額も、残余財産の価額に算入されるものである。

(三)  以上によれば、土地重課税額等は、清算所得金額の計算上、いずれも残余財産の価額に算入されるものである。

3  これに対し、原告は、土地重課税の性質に鑑みれば、土地重課税は清算所得に対する法人税とはいえないから、土地重課税額等は清算所得金額の計算上、残余財産の価額に算入されないと主張するが、法及び措置法の規定との整合性を欠く独自の解釈であるというほかなく、採用できない。

そして、本件変更決議により増額された訴外亡渡辺敏雄と同山本義夫に対する役員退職金額二一二三万二二〇〇円を損金として清算所得金額から控除すべきとする原告の主張(前記原告の主張1(二)は、土地重課税額等が、清算所得金額の計算上、残余財産の価額から控除されるべきであるとする前記主張を論理的前提とするものであるから、その前提において、理由がないことに帰する(したがって、本件変更決議の法的効力等に関する被告の主張の当否については判断しない。)。

また、清算所得金額は、解散による残余財産の分配として株主が払戻しを受ける金額のうち、資本等の金額以外の部分からなる金額であるとの原告の主張(前記原告の主張2)も、すでに摘示した法九三条一項の規定に照らし、理由がないことは明らかである。

二  結語

以上によれば、本件申告の清算所得金額の計算に誤りがあったとはいえず、原告の請求は理由がない。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 今村和彦 裁判官 村主隆行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例